2014年11月30日

2014:11:30:10:42:58

『ソング・フォー・マイ・ファザー 』/ホレス・シルバー



SONG FOR MY FATHER ソング・フォー・マイ・ファーザー+4
SONG FOR MY FATHER ソング・フォー・マイ・ファーザー+4

  今年も何人ものジャズ・ジャイアンツが逝去しました。その中のひとりがピアニスト、作編曲家
 のホレス・シルバー。

  思えば、しばらくこの方の活動を耳にしたことがなかったので、ずいぶん前から具合がよろしく
 なかったのだろうか?

  ”ファンキー”と形容されることが多いホレスですが、とても洗練されたピアニストであり、ソング
 ライターだったと思います。

  そんな彼の魅力が凝縮された代表作『ソング・フォー・マイ・ファザー 』。

  ザラザラした音色、ギザギザしたフレージングで暴れるジョー・ヘンダーソンのテナーが、ぐっ
 と作品を引き締めている。
 


2014年11月21日

2014:11:21:12:35:00

『ポートレイト・イン・ジャズ』/ビル・エヴァンス

ポートレイト・イン・ジャズ+1
ポートレイト・イン・ジャズ+1

  極々控え目な音量でジャズが流れる最近お気に入りの蕎麦屋で、雑誌を読みながら
 注文した品を待っていると、物凄く素晴しいタッチのピアノが聴こえてくるので、一体誰
 の作品だろうと耳を傾けていたら、何てことない超定番のこの”名盤”なのでした。

  久しぶりに聴いたこのアルバムですが、やはり良い者は良い!ビル・エヴァンスと不
 世出の天才ベーシスト、スコット・ラファロ、そしてポール・モチアンとの三位一体、イン 
 ター・プレイが大きな聴き所と巷ではよく語られるこの作品。最良のメンバーを得て、水
 を得た魚の如く嬉々として鍵盤上で唄うエヴァンスだけにスポットを当てて聴いても十分
 に楽しめるのではないか・・・季節柄エヴァンスがしっくりくるのは間違いないにしろ、これ
 ほどピュアに喜怒哀楽を”唄える”ピアニストは、実はほんの一握りしかいないのかもしれ
 ません。
 



2013年12月19日

2013:12:19:03:40:33

小曽根真 クリスマス・ジャズ・ナイト@仙台電力ホール



ozone.jpg


   今年も残すところあとわずか。記事にするつもりはなかったのですが、先日、足を運んだ
  コンサートが期待以上のものだったので、あくまで忘備録的なものということで・・・。


   ピアノの小曽根さんについてはこれまでも聴いてきたし、これからも聴く機会はありそう
  だけど、ベースにあのクリスチャン・マクブライド、ドラムスにジェフ・ワッツという、この超重
  量級?の「トリオ」を、ここ仙台で聴ける機会はこれからあんまりないでしょう。ということで
  、即チケットを入手。会場の電力ホールへと足を運びました。

   まあ、年末の週末、しかも平日というのもあったからでしょうが、客席はというと、まず
  まず埋まってはいるものの、よく見ると空席もチラホラ。観客の年齢層もやや高めか。

   東京ならばブルーノートでやるような顔触れですから、ちょっともったいないというか何と
  いうか・・・。これは昔からここ仙台で感じることですが、ことジャズのライブに関しては、事
  前の宣伝が不十分なような。まあ、宣伝するにもお金がかかる訳で仕方ないところもある
  んでしょうが、下手したら彼らが来仙していたことすら知らなかったジャズ・ファンもいるん
  じゃないかなと。


   そんなことはさておき、演奏の方はというと、そりゃもう凄過ぎ!!このリズム隊ならもう
  何でもござれなんでしょうね。小曽根さんも実に楽しそうにピアノを弾いてましたね。小曽根
  さんのピアノは、歳を重ねるごとに骨太というか、確実に一音一音の深みが増しているのが
  素晴らしいじゃないですか。ちゃんと表現したい何かが、素直に伝わってくるピアノですね。


   デビューしたての彼は、テクニック先行型というか、何だかチック・コリアのコピーのよう
  な気がしてあまり好きじゃかったのですが、彼が以前、アメリカに再度武者修行に出掛けた
  後ぐらいから、ピアノのみならずトータルで音楽性もとても良くなってきて、凄く好きになり
  ました。

   クリスチャンのベースは生で初めて聴きましたが、レイ。ブラウン直系と言った感じのズ太
  音色といい、完璧なテクニックといい、卓越したセンスといい、世界中の音楽家が彼と共演し
  たがるのはよくわかりますね。彼はまさに「現代のポール・チェンバース」と言っても決して大
  袈裟ではないスペシャルなベーシスト。アコースティック・ベースの王道を行くパワフルで堂々
  としたプレーは、その年齢に似合わず、もう年十年も活躍しているベテラン・プレイヤーのよう
  な貫禄を感じさせます(ヴィジュアルも)。

   そして、ワッツの本当に「しなやかな」という言葉がピッタリなドラミング!これは特筆して  
  おきたいのですが、良い意味で凄く「脱力」していて、その場その場の音楽に最適なリズム
  を、最適な音量、音数、音色で叩きだす技術。そしてそれらの実に音楽的なことと言ったら・
  ・・・。音数はかなり多いプレイヤーだと思いますが、完璧にコントロールされていて全然う  
  るさくないんですから。改めて彼がマスター・ミュージシャンであることを再確認した次第で 
  す。

   演目は、途中、小曽根さんのソロ・ピアノを挟んで、彼らのアルバムから数曲と、これから
  吹き込まれるであろう新曲が2曲。アンコールは、このトリオの伴奏で観客とクリスマス・ソ
  ングを合唱して終了。スタンダードナンバーは一切なく、オリジナルナンバーオンリー。小曽
  根さんの軽妙なトークと共に、非常に濃密で楽しい時間を過ごせました。

   しかし、よく考えてみると、私も彼らの鮮烈なデビューをそれぞれ記憶していて、そんな彼
  らも、もはやそれぞれの分野のトップ・アーティストとして八面六臂の大活躍です。しかも今
  や日本人がこんなトップ・プレーヤーを率いて、全く互角のプレーを繰り広げているんですか
  ら(勿論、昔も渡辺貞夫さんほはじめおられましたが)時の流れるスピードはハンパない・・・
  熱い演奏の余韻と共に、そんあなちょっとした感傷に浸りながらの家路でした。

2013年10月03日

2013:10:03:17:14:31

『サックス&ブラス・マガジン volume28』はマイルス・デイヴィスの愛器特集

  サックス&ブラス・マガジン volume28 (CD付) (リットーミュージック・ムック)
 
   お久しぶりです。お元気でしょうか?ちょっと紹介しておきたい雑誌が今発売されているので
  臨時投稿です。

   このブログでも、ずい分前に記事にしているマイルス・デイヴィスが終生愛用してた楽器に
  ついてなんですが、現在発売されている『サックス&ブラス・マガジン』でマイルスのトランペッ
  トやマウスピースについて大々的な特集が組まれています。

   楽器やマウスピースのみならず、関係者のインタビューや写真掲載も豊富で、今までにない
  充実した内容で、資料としてもとても価値がありそうです。興味のある方は御一見を。


 
posted by sou-un at 17:14 | Comment(2) | TrackBack(0) | 今月のジャズ関係誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月27日

2013:04:27:11:23:07

ブログ休止のお知らせ。

   突然ではありますが、この『テンションノート・ジャズブログ』を、この記事をもって一時休止
  とさせていただくことにします。(ブログは残します。)

   正直なところ、もっと紹介したいアルバムや書き溜めた記事もたくさんあるのですが、他に
  集中しなければならないこともあり、モチベーションの維持も難しいとの判断で、無期限の休 
  止という形をとることに致しました。

   自分では続かないと思っていたこのブログも、2007年の暮れにスタートですから、不定
  期ながらも、今日までよく続けてこれたものだと思います。まあ、少なくとも丸々6年はやっ
  ている訳で、ある意味、ひとつの節目ということじゃないかなと思います。

   以前からこのブログでも何度も書いていますが、昔はジャズの情報というと、ニッチな?分
  野の性ともいうべきか、巷に出回っている出版物くらいしかなかったものですが、今や時代は
  ネットの時代。玉石混交という面はあるにせよ、ほぼリアルタイムで最新のものをゲットでき
  る素晴しく便利な時代です。

   皆様方もこれらを上手く活用されて、これからもジャズという音楽を存分に楽しんでいただ
  ければと思いますし、勿論、私も、この音楽とは一生のお付き合いになると確信しています。

   そして、できることならば、CDを聴くことだけでなく、できるだけ、ライブ会場に足を運ばれ
  て生で演奏を楽しむ機会を作っていただければなお幸いです。まだ書きたいことはあったの
  ですが長くなりそうなのでこれくらいで・・・。

   それでは皆様、長きに渡り本当にありがとうございました。そしてまたいつかどこかで。・・
  ・・さようなら。

                         『テンションノート・ジャズブログ』管理人:sou-un

   
posted by sou-un at 11:23 | Comment(6) | TrackBack(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月22日

2013:02:22:16:38:12

『チェット・ベイカー・イン・トーキョー』/チェット・ベイカー

Chet Baker - Live In Tokyo.jpg


   もうずいぶん前ですが、『終わりなき闇』という分厚いチェット・ベイカーの伝記本を読み終え
  た後、まるで梅雨空のように陰鬱な、何とも言えない気分になった記憶があります。

  
   優れた才能に恵まれながら、麻薬のためにその天賦の才を捧げてしまった典型的な破滅型
  ジャズメンの生き様。彼と同じ様な生き方をした先人達は、そのほとんどが若くして命を落とし 
  、功績ある者は伝説となりましたが、幸か不幸か悪運の強い彼は生きながらえ、数多くの美し
  い音楽を残す代償として、周囲の人間を徹底的に裏切り、そしていかにもジャンキーらしい不
  審の最期を迎える。麻薬の恐ろしさもさることながら、彼自身が、望んで坂道を転がり落ちて
  行るかのよな刹那的過ぎるその生き方・・・まあ、その後味の悪いこと、悪いこと!


終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて
終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて


   麻薬常習癖のため「来日しない最後の大物」と言われたチェット・ベイカーですが、80年代
  に2回の来日を果たしています。最初の来日はファンの間でかなり話題となり、当時、彼につ
  いてあまり詳しくなかった私も、一度この生きる伝説的なトランペッターを生で聴いてみたくて
  、ライブに足を運ぼうとしたのですが、どうしても都合がつかずに断念。その前後にリリースさ
  れた来日記念企画盤?の『チェット・ベイカー・シングス・アゲイン』を、とりあえずLPで購入し
  て聴くに甘んじることに・・・。しかしながら、これはあまりにも企画色が強く、スタジオ録音だっ
  たこともあり、とても満足できるものではなかったですね。

チェット・ベイカー・シングス・アゲイン
チェット・ベイカー・シングス・アゲイン

   若い頃は「ジャズ界のジェームス・ディーン」と形容されるほどのルックスだった彼ですが、
  まず当時のファンがショックを受けたのは、その驚くべき風貌の変化でした。今思うと、人生
  の辛酸を舐め尽した苦悩が、無数の深い皺となって刻まれたような顔は、彼の実年齢よりも
  ずっと老けて見せていたのでしょう。日本のファンは、それこそ彼が若い頃に作ったレコード
  ・ジャケットの、あの憂いを帯びた甘いルックスをイメージしていた人がほとんどだったでしょ
  うから、そのインパクトは相当のものでしたね。

   ところが、その時の彼のプレーに耳を傾けてみると、あの中性的とも言われた独特の声に
  若干の”渋み”が加わった感じはするものの(それでも、ほとんど変わらない。)、そのトラン
  ペット・プレーは、若い頃と全くと言ってもいいほど変わらない。いや、むしろ若い時よりもそ
  のトーンはより太く、アドリブ・ソロはより力強くなっているのです。

     
   彼は決してハイノート・ヒッターではありませんし、使うレンジもある程度限られているので
  すが、それでも十分に彼自身の音楽を表現できている、というか、彼にとっては十分なので
  しょう。そのフレージングは驚くほど自然で、かつ流れるような美しさがあります。何もこれ見
  よがしなテクニックやトリッキーなことをやらなくても、ただただ頭の中に浮かぶメロディを、ま
  るで歌でも歌うが如く吹けばそれだけで十分勝負できる・・・実はこんなに難しいことはないの
  ですが、それをさらっとシンプルにやってのけてしまうところが、彼の音楽の持つ力強さなので
  しょう。

   実際、彼はこの東京公演でも様々なタイプの曲を取り上げていますが、他の作品でも、おな
  じみのスタンダードであれ、マイルスのやったモーダルな曲であれ、ビッグ・バンドがバックで
  れれ、いつでもチェット節を朗々と奏でていますし、それが全く無理なくフィットしてしまうので
  すから本当に天性のメロディ・メイカーですね。とはいえ、彼からすれば、その日の糧、いや、
  ドラッグを得るための”手段”に過ぎなかったのかもしれませんが・・・。

   ところで、私が昔購入したLP盤は、当時のチェットの状況を伝える最新盤だったものの、ス
  タジオ録音だったので、近年、この東京公演の2枚組ライブCDを中古で入手。改めて聴いて
  みましたが、かなり良いです!コレは。麻薬に厳格な日本ですから、来日時は、当然”ドラッグ 
  断ち”状態だったと想像されますし(日によってムラはあったそうですが)、彼自身が日本公演
  を非常に楽しみにしていたというだけあって、意気込みも並々ならぬものがあったのでしょう
  か?選曲も良く、何よりチェットの凄みのあるトランペットが堪能できますし、彼をサポートす
  るメンバーのプレーも良いですね。

   私はチェットの来日公演を生で聴けなかったことを、今でもちょっと後悔していたのですが、
  とりあえず、このライブ・アルバムを聴いて納得しているところです。




posted by sou-un at 16:38 | Comment(3) | TrackBack(0) | ザ・廃盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月19日

2013:02:19:00:36:29

バップ・マイルスを聴く!『パリ・フェスティバル・インターナショナル』/マイルス・デイヴィス

in paris festival  international.jpg


   よくマイルスがビ・バップを演奏する技量がなくて、ゆったりした”クール・ジャズ”を志向した
  といったようなことを書かれていたりするのですが、これは大変な誤りで、あくまでそれは音楽
  性の問題であって、決してテクニカルなことではありません。

   確かに初期のレコーディングに耳を傾けてみると技術の拙さを感じるものもあるのですが、
  それは大概のミュージシャンが通る道であり、彼が師とも仰いだパーカーやガレスピー、また 
  は歴史的な天才技巧派トランペッター達のそれとの比較論に過ぎません。

   1949年、パーカーの元を離れ、ピアニストのタッド・ダメロンとの双頭グループでパリの国
  際ジャズフェスに出演時のラジオ放送用音源である、この『パリ・フェスティバル・インターナシ
  ョナル』を聴いてみれば、彼が40年代のこの時点で、すでに卓越したビ・バップ・トランペッタ
  ーであったことがよくわかるでしょう。

   この頃の欧州は、ジャズの本場であるアメリカとは比較にならないくらいモダンジャズが評価
  されていて、そんな歓迎ムードも後押ししたのでしょう。マイルスのトランペットは大変力強く、
  かつ雄弁で、それまで彼が苦手とされていたハイノートをふんだんに交えたソロは、本来彼が
  、かのディジー・ガレスピー直系のビ・バッパーであることを裏付けるものです。またプレーと
  は全然関係ないですが、声帯を潰してしまう前の意外に美声な?彼のステージアナウンスも
  聴けるという珍しい音源でもあります。

   この日の演目は、ビ・バップを代表する曲がズラリですが、大観衆を前に全く億する様子も
  なく、アップ・テンポの曲では実に溌剌と淀みなく、また「Embraceable You 」や「Don't B
  lame Me」などのバラードでは、「洗練度」という点では比べものにならないものの、すでにこ
  の時点で、後年の彼のトレード・マークともいえる、ゆったりとノン・ヴィブラートで吹く、抒情的
  なスタイルになっていることは、大いに注目したいところですね。

  
   ちなみにこの渡欧の後、帰国したマイルスは、欧州に比べてあまりにもジャズという音楽が
  認知されていない(評価されていない)現実、そして根強い人種差別問題に幻滅。そこから逃
  避するためだったのか禁断の麻薬の世界に足を踏み入れ、まさに「暗黒の世界」に突入して
  しまうのです。


2013年02月14日

2013:02:14:00:10:01

『ザ・キング・イズ・ゴーン』/マーカス・ミラー

the king is gone.png


   まあ、この人ぐらいイメージとリアルとのギャップの少ないミュージシャンはいないんじゃない
  かと思う程、ライブで聴いたマーカスは「ウマイし、カッコいいし、一分の隙もないデキる男」と
  いった趣でした。アーティストとしても勿論、クールなエンターテイナーとしても超一流。彼の極
  初期のリーダー・アルバムに『パーフェクト・ガイ』という作品がありましたが、まさに文字通り、
  の「完璧な男」ですね!

   マーカスの師とも言えるマイルスの死から間もなくリリースされた、この『ザ・キング・イズ・ゴ  
  −ン』という作品。かの中山康樹氏も、その著書の中で結構辛辣な評価(要は、ベース小僧し
  か楽しめないでしょコレ。みたいな)をしてましたし、確かに言われてみれば、言い得て妙な所
  もあるわけで、果たしてこのアルバムが「名盤」なのかは判断しかねるのですが、個人的には
  彼の華々しいキャリアの中でも大きな「転換点」となった作品だと思うので、ここで紹介してお
  きます。

   というのも、この作品を発表する以前のマーカ・ミラーは、勿論本職であるベーシストとして
  は、すでに超一級の腕前というのは十分認知されていたのですが、マルチ・ミュージシャンで
  ある上に、プロデューサーとしての活動も超多忙。それ故ファンの多くは、マーカスがベース
  ・ソロをやれば、とんでもなく凄いのは既に彼が過去に参加した作品で知ってはいたものの、
  当の本人は、あくまでサポート(プロデュース業)やバッキングと「音楽性」重視の活動に重き
  を置いていたので、「ジャコやスタンリーみたいにこの人がベースのアルバムを作ったらどん
  なに凄いんだろう?」とか「マーカスのベース・ソロをおなか一杯聴いてみたい。」・・・等々と、
  心の片隅でそんな気持ちを抱いていたものでした。(現在でいえば、リチャード・ボナみたいな
  感じですね。)

   そんなこんなで、マイルスが死去。ファンの「マーカス・ベーシスト回帰願望」がピークに達し
  たタイミング、まさに満を持してリリースされたのが、この『ザ・キング・イズ・ゴーン』というアル
  バムだったわけです。

  
   タイトルどおり、亡きマイルスにオマージュして制作された作品ですが、ある意味、マイルス
  の死は、マーカスにとっては飛躍のための大きなキッカケだったのでしょう。それまでは、あく
  まで主役の魅力を最大限に引き出すことを主にしていた彼の個性的なフェンダー・ジャズ・べ
  ースは一転、非常に雄弁なリード楽器へと変貌。本来の「メイン・ヴォイス」であるベースを、
  その音作りの軸に据えた路線は、進化を遂げながら現在に至るまで続いているのです。

   さて、このアルバムの方に目を向けると、生前のマイルスの音源やウェイン・ショーター、デ
  ヴィッド・サンボーンにトニー・ウィリアムズ、レニー・ホワイトやオマーハキム等々、まるでパ
  ーティのような豪華なゲスト陣に目を奪われがちですが、これら超個性派達を自分の音楽の
  「一部」にしてしまうマーカスの力量に注目したいところ。 彼らのパーソナリティをちゃんと披
  露しながらも彼らと全く遜色ないレベルで自分のベースも主張する。それでいて全体としては
  自分のカラーをしっかり出す・・・本来は低音楽器であるベースでこれらの課題をクリアする
  には、アレンジの工夫ほか、越えなければならない音楽的ハードルが沢山あるのですが、さ
  すがはマーカス!これまでの無数に及ぶサポートやプロデュース業で蓄積してきた音楽的ノ
  ウハウを駆使して見事にそれを克服しているのです。

   また、これまでにマーカスのスラッピング奏法(親指、人差し指で弦をはじく奏法)は、すで
  に完成の域に達しており、その評価も確率されていたのですが、このアルバムあたりから、
  更にその音色やフレージングに彼ならではの「香気」というか色気のようなものを纏い始めま
  す。ほぼ全編でそれらは楽しめますが、象徴的なのが、ジャコの名曲でジャズ系ベーシストの
  必修曲?である「ティーン・タウン」。ジャコ自身は、これを2フィンガー奏法(中指と人差し指 
  で弾く奏法)で弾き切っているのですが、それを敢えてマーカスは、スラッピング奏法で弾き通
  しているところがミソ。その演奏がジャコとはまた違った味わいになっていて、マーカスの、もう
  ひとりの「キング」であろうジャコへの最良のオマージュになっていますね。個人的にはマーカ
  スのフレットレスベースによる4ビートが冴え渡る、ショーターとトニーとのタイトル・トラックは、
  大きな聴き所かと思います。



2013年02月12日

2013:02:12:09:54:37

『サバイバー』/ヨアヒム・キューン

joachim.jpg


   ブレッカーズ時代のマイケル・ブレッカーがストレート・アヘッドなジャズを全力でやったらど
  んなに凄いんだろう?・・・そんな欲求を叶えてくれるアルバムがあります。

   ドイツ出身のピアニスト、ヨアヒム・キューンの、1981年4月にテナー・サックスのマイケル
  ・ブレッカー、ベースのエディ・ゴメス、ドラムスのビリー・ハートらNYの俊英ミュージシャン達
  との豪華セッションを収録した『ナイトライン・イン・ニューヨーク』というアルバムがあるのです  
  が、同セッションの未発表テイク2曲と、未発表曲5曲で構成された”もう一つの『ナイトライン・
  イン・ニューヨーク』ともいうべき『サバイバー』という作品がそれで、未発表曲の中には、バッ
  プの難曲「チェロキー」やスタンダードの「ミスティ」が含まれるほか、若かりし日のマイケル・
  ファン悶絶の超絶プレーが聴けることでも知られています。


ナイトライン・ニューヨーク (紙ジャケット仕様)


   一般的に未発表録音集というと、質の面で劣ったボツテイクの寄せ集め的なイメージがある
  かもしれませんが、この『サバイバー』はさにあらず。ヨアヒム自らが近年監修に当たったとい
  うだけに、その出来栄えは折り紙付き。私が想像するに、ボツになったのは、演奏そのものの
  不備というより、あまりににもテンションが「高過ぎる」ためだったのではないかと思われる程
  ライブ感溢れるもので、確かに時折レッド・ゾーンまで針が振り切ってしまったかのように演奏
  のヴォルテージが上昇する場面では、若干の「荒っぽさ」すらを感じさせます。

   特にキューンの超攻撃的なピアノと、ビリー・ハートの丁々発止のやり取りは凄まじい!一
  方のマイケルは、アツいながらもどこか冷静。彼の頭脳に浮かぶ無数のコードの中から瞬時
  にベストなものを選び出し、高性能のスポーツカーよろしくアクセル全開、フルスピードで疾
  走する感じ?同じ白人コルトレーン派テナーでも、先日記事にしたスティーブ・グロスマンな
  らば、猛々しく襲い掛かるリスム隊に対し、あの野獣のようなパワーと感性で押し切るところ
  でしょうが、マイケルの場合は内に静かに燃えるものを秘めつつ、ここぞという時に、あの正
  確無比な16分、32分音符の速射で応戦ですね。

   
   キューンのモーダルなオリジナルが大半を占める中、なぜか異色のジャズ・スタンダードが
  2曲。マイケルのこういった演奏はそう多くないので、間違いなくこの2曲は、このアルバムの
  重要な聴き所のひとつです。おそらく、ウォームアップ的にやってみたら、予想以上の出来栄
  えになったものの、アルバムの趣旨とは全然違うのでお蔵入りになっていたのはないでしょう
  か?

   スローで演奏されることが多い「ミスティ」はミディアム・ファストで。パーカーやクリフォード・
  ブラウンの名演で知られる「チョロキー」は超アップテンポでやってますが、いずれもマイケル
  のテナーは最高。ちょっとレイドバックさせて歌うフレーズと、疾風怒涛のマイケル流シーツ・
  オブ・サウンドとの巧みな使い分けが実に美味なソロは、まさに彼の真骨頂と言えるもので、
  ただ「生前のマイケルの珍しい演奏」で片付けてしまうには、あまりにももったいないトラック
  かと思います。


   ところで、この作品ですが、7、8年前に突如リリースされて、残念ながら市場からあっという
  間に消えてしまいました。兄貴分の『ナイトライン・イン・ニューヨーク』の方は、ちょっと前まで
  普通に入手できたのですが(在庫があっただけかもしれません。)、とうとうこちらの方も廃盤
  になってしまったようですね。まあ、需要が少ないとはいえ、とても残念なことです。

   


posted by sou-un at 09:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | ザ・廃盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月10日

2013:02:10:19:56:03

『オン・ザ・コーナー』/マイルス・デイヴィスでパイオニア精神を聴く。


オン・ザ・コーナー

   ひょとするとこのアルバムがヒップ・ホップの元祖かもしれない〜それが本当かどうかはわ 
  かりませんし、作った当の本人もそんなことは考えもしなかったでしょうが、とにかくこの作品
  が世に出た時は、かなりの物議を醸したのは間違いなく、古くからのマイルス・ファンは、「こ
  れでマイルスは終わった。」とばかりにソッポを向き、彼のことを知らない若いファンは、「こん
  なヒップな音楽作るマイルスって凄いね!」と狂喜したことでしょう。(しかし、当時は、リリース
  のタイミングが合わず、セールスはかなり悪かったそう。)

   1972年発表の『オン・ザ・コーナー』。確かにこの時期のマイルスを「エレクトリック・マイル
  ス」という特化して呼ぶ向きもありますし、アコースティック・マイルス時代の聖典を『カインド・
  オブ・ブルー』とするならば、この作品がエレクトリック・マイルス時代のそれだと、熱狂的に
  支持するファンも未だに多いですよね。

   このアルバムを制作していた時期、マイルスは、自分のコンサートに来る聴衆に若い黒人
  があまり来ないこと(マイルスは生前、白人のことを差別主義的な白人を相当罵っていました
  が、実はこれまで彼の音楽を支持したのは白人層が多かったのは事実。)に悩んでおり、彼
  らに自分の音楽に目を向けさせるため、当時の黒人に若者達が熱中したスライ・ストーンや
  ジェームス・ブラウンのファンキーでダンサブルな要素を、いかにマイルス流なインテリジェン
  スを付加するかに腐心したのが、このアルバムの持つ非常に特徴的なサウンドの出発点。

  
   実際に耳を傾けてみると、そこは「リズムの塊」といた風情。現代ならばリズム・マシンで処
  理してしまうであろう、執拗なまでに一定なパターンを刻むディジョネットのドラムスにアフリカ
  ンなパーカッション。そこに幾重にもかぶさるエレクトリック・シタールやタブラといった一風変
  わった楽器群。どファンクなリフを淡々と刻むヘンダーソンのベースと、マクラフリンらギター
  陣。もうこの時点で古くからのファンは参りかけているというのに、極めつけはマイルスのトラ
  ンペット!「ソロ」らしいものはあるものの、それまでのような「主体」ではなく、あくまで全体の
  サウンドの「一部分」の様にエフェクト処理されたトランペット・サウンドは、更に彼らの混乱に
  拍車をかけたのは想像に難くありません。(かく言う私も初めてこれを聴いた時は、いつマイ
  ルスの、あの世界が始まるのかと待って聴いていたら、いつの間にやら終わってしまったとい
  った感じでした。)

   そんな古くから彼のことを知るファンの離反も承知の上で、彼がこの作品で徹底的にフォー
  カスしたのが、マイルスの強力なコントロールの下、複数のリズムを組み合わせて自然発生
  的に作り出す「ポリリズム」。一応マイルスらしいシンプルなメロディの断片は散りばめられて
  はいますが、あくまでも主体はリズムであり、このセッションの膨大な記録を計算された編集
  作業によってひとつの「作品」にまで仕立てあげた手法もまた革新的なのです。


   思うにビ・バップ時代のマイルスは、「すべてのチェンジをモノにしたい。」等と発言している
  ことからも、「ハーモニー(コード)」に彼の関心が非常に集中していたことが窺えます。それが
  『カインド・オブ・ブルー』以降、モードの導入と共にその関心が「旋律」へと移り、黄金クインテ
  ットの頃にはそれがある程度完成したというか、煮詰まった感があったんじゃないかと思うの
  です。そして時代は70年代。スライ・ザ・ファミリー・ストーンら、ファンク・ミュージックの台頭と
  共に時代の潮流に敏感なマイルスが改めて大注目したのが「リズム」であって、その頃のマイ
  ルスは、既にトランペットでリリカルなメロディを吹くなどということには、さほど関心がなかった
  のではないかと考えられます。

   マイルスは「ジャズ界のピカソ」と称される様に、自分がこれまで苦労して築き上げてきたス
  タイルを自ら手で破壊し、批判、批評の嵐に晒されることも、それらの行為が自らのキャリア
  い傷を付けるリスクも覚悟の上に新しいことに挑戦し続けてきたわけですが、そのシンボルと
  も言うべき作品がこの『オン・ザ・コーナー』というアルバムです。もしも食わず嫌いでこの作品
  を聴いていないという方は、気に入るか入らないかは後で良いですから、50年代、60年代の
  マイルスの作品を聴いてから、続けてこのアルバムを聴いてみて下さい(笑)。

   ピカソほか、偉大な画家がそうだったように、この短い期間に、ひとりの人間がこれ程芸風を  
  劇的に変化させてしまった例は、ジャズ界はおろか音楽界では極めて稀なことで、マイルス程
  のミュージシャンであれば、おそらく、50〜60年代のスタイルで食っていけた可能性もあるわ
  けですから、あえてそれを「やらなかった」、彼のパイオニア精神みたいなものをこの作品から
  感じ取って頂ければと思います。



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