先日、小川隆夫氏の新作『証言で綴るジャズの24の真実』という本が
発売されました。この本は、今から20年程前に氏がスイング・ジャーナ
ル誌に2年間にわたって連載されていた『証言で綴るジャズ』というイン
タビュー記事を掲載順に編集したもので、もちろん今回の出版にあたっ
て文章の方もいくらか手直しが施されているようです。
『証言で綴るジャズの24の真実』
私も思えば、23年程前にジャズを聴き始めたのですが、当時は現在
のようにインターネットなどはなく、ジャズについての情報や知識は、す
べて月々のお小遣いで購入していたレコードと、スイング・ジャーナル
やジャズライフのような専門誌に頼っていましたね。そんな中でも氏が
連載されていた『証言で綴るジャズ』は、当時現役で活躍していたジャ
ズの歴史に大きく関わったジャズメンが毎月ひとりづつ登場して、まさ
に”証言”という言葉がピッタリのリアルな話を語っているもので、当時
の私はこの連載を貪るようにして読んでいたものです。
こうして本としてまとまった形で改めて読んでみると、気に入って何度
も読み返していた様な記事は当時の懐かしい記憶が蘇ってきますし、
読んだつもりですっかり忘れてしまった記事などは、初めて読む様な新
鮮な感覚で読むことができましたね。
この本に登場する23人のジャズメンたちは、本当に個性豊かでユニー
クなのですが、全体を通して読んでみて強く感じることは、それぞれが本
当に一生懸命に、それこそ命懸けで音楽に取り組み、そして生きてきたん
だなということ。それぞれ天才と賞賛される様な才能を持ち合わせたひと
達ですが、その栄光の裏にはやはり血の滲むような努力があり、社会的
辛酸を舐めてきているのですね。その背景には、ジャズという音楽を正当
に評価しないアメリカという国の体質や人種差別問題など複雑でデリケー
トな問題も絡んでいるのですが、逆にそれらをバネにして、ジャズの大き
な歴史を形成してきた一面もあるわけで、それらに対する強いプライドも
彼ら言葉の中に感じることができます。
ステージ上の彼らの姿や彼らの演奏はとても華やかで、聴いている我
々にたくさんのエネルギーを与えてくれましたが、その当事者たちの口か
ら語られる証言は本当にリアルで重みがありますし、それを知ることによ
って、彼らの音楽をまた違った角度で聴くことができそうです。
また、そんなシリアスな感想とは反対に、我々がまことしやかに語ってい
るジャズの理論や知識は、演奏している当事者の意図とズレて広まってい
ることが意外に多いということ。本などで大真面目に書かれていたり、解説
されていることが、実はビックリするくらい軽い動機で生み出されていたりす
ることもあるのですから面白いもので、まあ、音楽に限らず芸術というものは
、得てしてこういうことが多いものかもしれませんね。
私は連載された当時から、サックスのウェイン・ショーターがモードについ
て語っている記事が特に気に入っているのですが、これなんか、巷でよく語
られている抽象的なモード手法の考え方とショーターの考え方に大きなギャ
ップがあるのがよくわかります。このインタビューの中でショーターは、マイル
スのバンドに在籍していた時に、モードに対する考え方が自分とマイルスと
ではかなり違っていたという証言をしているのですが、これなんか当時のマ
イルスの音楽を読み解く上でも重要なヒントになりそうなものですし、私が
思うに、モード・ジャズについてここまで実践的でわかりやすく掘り下げた記
事というのはあまりなかったのではと思います。
トランペット奏者のクラーク・テリーやピアニストのデューク・ジョーダンが
語る若き日のマイルス・デイビスの話はとても愛情に溢れていて、彼のま
た違った側面を浮き彫りにしていますし、フレディー・ハバードがトップ・トラ
ンペッターへと上り詰めていくまでの苦労話も、当時のジャズシーンの実
態を知る上でとても貴重な話ではないでしょうか。
そのほか、挙げればキリがないほど読みどころは多いのですが、一つ
だけ気になるのことがひとつ。これは出版社側の問題でしょうが、ちょっと
装丁が・・・・なのです。もう少し何とかならなかったのかという感じなんで
すね。いわゆるペーパー・バッグ・タイプの本だと予め分かってはいたも
のの、実際こうして手にとってみると、内容が素晴らしいだけにちょっとも
ったいないというか残念な感じはしますね。ただ、私にとって値段以上の
価値のある一冊には違いないので気にもしていないのですが、今後もし
もハード・カヴァーで再版されるようなことがあったら私は迷わず再購入
するでしょうね。今年出版された児山紀芳氏の『ジャズジャイアンツの肖
像』と並んで、ジャズファンならば永久保存しておきたい貴重な記録がい
っぱいの一冊ですね。








