が、昨年の暮れに名トランペッターのフレディー・ハバードが心臓病の
ため他界したというとても残念なニュースが飛び込んできました。
正直なところ、年頭からいきなり「追悼記事」からアップするのもどう
なのかとも思ったのですが、個人的に大好きなトランペッターだったこ
ともあり、まずはこれナシでは今年のこのジャズ・ブログは始められな
いということで書かせて頂くことにしました。
フレディ・ハバードというトランペッターは、クリフォード・ブラウン亡き
後、その演奏スタイルを出発点としながらも、当時の最先端をいくア
ーティスト達との共演を通してコンテンポラリーな要素を付加して、彼
以外何者でもないといったような超個性的なスタイルを作り上げまし
た。
私は彼より若い世代のトランペッターで、どんな形であれ彼の影響
を受けていないひとなどいないのではないかと思うのですが、フレデ
ィー・ハバードほどのミュージシャンの死が、新聞等のメディアで下の
方の「お悔やみ欄」のところに小さく記載されているだけなのは、仕方
のないこととはいえ些かの寂しさを禁じ得ません。
また、ご存知のとおり、フレディー・ハバードは近年、体調不良のた
めにほとんど自分の思うような演奏ができない状態だったのですが、
彼を追悼するにあたっては、彼の最晩年の演奏や状態を紹介するの
ではなく、最盛期のプレーが聴ける作品を紹介するのが一番というこ
とで、この『エイルピアン・アイルズ』をレビューすることにしました。お
そらく、亡くなった彼もプレーできなくなった頃の自分よりバリバリとプ
レーしていた頃の自分を振り返って欲しいでしょうから。

曲目
1. ワン・フィンガー・スナップ
2. オリロクィ・ヴァレー
3. カンタロープ・アイランド
4. ジ・エッグ
5. ワン・フィンガー・スナップ(別テイク)
6. オリロクィ・ヴァレー(別テイク)
この『エイルピアン・アイルズ』というアルバムは、ピアニストのハー
ビー・ハンコックの1964年の作品なのですが、フレディー・ハバード
が唯一ホーン奏者として参加しているのと、彼のベストともいえる最
高のトランペット・プレーが聴けるアルバムだからです。
収録されている曲も、当時のハンコックらしいアップ・テンポのモー
ダルな「ワン・フィンガー・スナップ」や彼の代表曲で都会的なファン
キーな味わいの「カンタロープ・アイランド」、フリー・ジャズ的なアプ
ローチが光る「ジ・エッグ」など多種多様で、当時の彼の創作意欲の
充実ぶりが伺える内容となっています。
一方、このアルバムで唯一のホーン奏者であるフレディー・ハバー
ドは、このようにバラエティーに富んだ作風の曲にもかかわらず、抜
群の柔軟性でこのグループに最高にフィットしたソロを随所に聴かせ
ており、オープン・ホーンでバリバリと吹かれるそのフレージングの多
彩さ、切れ味、そして輝かしい音色は、当時の若手トランペッター達の
追従を許さぬ見事なものです。
実際、このアルバムに参加する数年前にレコーディングされた彼の
デビュー作『オープン・セサミ』のプレーに比べると、その成長振りには
目を見張るものがあり、デビュー作では、明らかにクリフォード・ブラウ
ンの延長線上にあるプレーに終始していたに彼が、マイルスのグルー
プで鍛え上げられたハンコックらと比べても、全く遜色のないプレーを
披露しているのですから驚くほかありません。
おそらく、ハービー、ロン、トニーという強力なリズム・セクションに
一番フィットするトランペッターは、彼らの「育ての親」であるマイルス
を除けば、フレディー・ハバードだけだったのではないでしょうか。
これは私の勝手な想像なのですが、このアルバムでソロを吹いて
いるときの彼は、きっと「俺がナンバー・ワンのトランペッターだ」と思
いながらプレーしていたのでは と思えるほどそのひとつひとつのソ
ロには自信と気迫が漲っています。
スポーツをはじめとして我々の仕事もそうなのですが、色んな状況
や条件が重なった上に、自分自身「自分は最高なんだ」という自己暗
示的なものが加わると、自分でも信じられないような結果が出るよう
なことがありますが、このアルバムをレコーディングしているときのフ
レディ−・ハバードはもしかしたらそんな状態だったのかもしれません
ね。
しかしながら、ただバリバリと吹いているだけのアルバムならば、こ
の作品に限らず多作家の彼ならば他にも結構あるのですが、私がこ
のアルバムでの彼のプレーが好きなのは、ハードに吹いていながら
も作品全体のバランスを緻密に計算しているかのような「冷静さ」、こ
れはマイルスのあの「クールさ」とは全く異質なものなんですが、これ
がとてもいい具合で感じられるからなんです。
体調を崩す前のフレディーは、車に例えると、物凄いパワーのエン
ジンを備えたスポーツ・カーが、常にアクセル全開で、ガソリンがある
だけ突っ走ってしまうようなところがあって、そういうところが彼のトラ
ンペッターとしての魅力でもあり、ミュージシャンとしては批判の対象
になったところでもあるのですが、このアルバムでの彼は、高性能な
マシンを多彩なテクニックで操りながら、緩急を使ったレース運びで
凄いタイムを叩き出すレーサーといった感じといえば良いでしょうか。
とはいえ、彼が亡くなってしまった今、この『エンピリアン・アイルズ』
のようなバランスの良いプレーだけでなく、あのユニークでやんちゃで
良い意味で下品の一歩手前といったようなフィジカルなプレーも懐か
しく感じられてしょうがないのですから勝手なもので、正直いうと、彼が
存命中は、時折見せるそんな彼のプレーに、ちょっと抵抗を感じたこと
はあります。
中学、高校の頃、あくまで遊びでですが、彼独特のトランペットの構
え方、アゴを少し引き気味にしてベルをほんの少し上向きにするスタイ
ルや、あの速吹きフレーズを一生懸命に真似たことを懐かしく思い出す
のと同時に、自分の中でもリスナーとしてひとつの時代が終わってしま
ったかのような空虚感と喪失感がありますね。
フレディー・ハバードのような、プレーもキャラも超個性的なアーティ
ストが本当に少なくなってきている昨今、本当に貴重な人材をジャズ・
シーンはまた失ってしまいました。
おそらく今年のジャズ・シーンは、この偉大なるトランペッターの存在
感と影響力の大きさを再認識して彼にトリビュートする作品がたくさん
リリースされるのではないでしょうか。というか、これを機会に国内外、
楽器の種類を問わず、今一度、彼の功績を再評価することを強く期待
したいところです。









さて、フレディ・ハバードの死。20年前にウディ・ショーの死の報に接した時とはまた別の意味・感覚で、さみしく、悲しく、重い。ドルフィーの「アウト・トゥ・ランチ」でも、ビル・エバンスの「インタープレイ」でも、ハンコックの「エイルピアン・アイルズ」でも、どの作品でも存在感を示すことが出来るようなトランペッターなんて、そうザラにはいないと思います。SOU-UNさんもおっしゃっているように、本当に引き出しの多いというか懐の深いミュージシャンでしたね。合掌。
ウェイン・ショーターの健康状態もあまりよいとは言えない、というような噂も聞いたことがあります。SOU-UNさんの「自分の中でもリスナーとしてひとつの時代が終わってしまったかのような空虚感と喪失感があります」という一文が印象に残りました。
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。
そういえば、ウディ・ショウの時も衝撃的でしたね。
フレディとウディは良きライバル同士でしたが、これでこの世
代の素晴らしいトランペッターがポッカリといなくなってしまっ
たわけで、仕方のないこととはいえ寂しい限りです。
私もウェイン・ショーターが高血圧で、いろんな薬を常用して
いるようなことを聞いたことがありますが、ウェインは、まだ彼
の本当にやりたいことの半分も実現できていないような気が
していますので、ぜひ長生きして欲しいです。
今回のフレディの死は大変残念なのですが、現在のジャズ・
シーンに、彼から影響を受けた上手いプレイヤーはたくさん
いても、彼のように次世代に影響を与える強い個性を持った
人材が少ないということも気になります。