ジャズ・ミュージシャンの中には「私はこの楽器しかやりません。」
といった職人気質なひともいるにはいますが、天性、器用とでも言い
ますか、自分の専門外の楽器にもかかわらず”プロ裸足”な腕前を
持ったひとも大勢います。
たとえば、ピアノという楽器の場合、大抵はこの楽器を入口にして
音楽の道に入ることが多いということと、ジャズという音楽が高度な
和声の知識と理解が必要不可欠ということもあってか、大方のジャ
ズ・ミュ−ジシャンは、ピアノにかなり習熟しているケースが多いで
すね。
また、ピアノ以外の楽器、例えばドラムスやパーカッションなどの
リズム楽器や自分の専門外の管楽器、弦楽器なども相当なレベル
でプレーできるひとがいたり、色々な楽器をすべてこなしてしまうマ
ルチな才能に恵まれたひとも中にはいるようです。
今回この記事を書くにあたって、色々な音源をチェックしたり、不
な点は色々調べてみたりしたのですが、セッションの成り行きでコ
ッソリと演奏されたものから、自分の専門外の楽器でまるまる一枚
のアルバムを作ってしまったツワモノまで本当に多種多様で、それ
こそ大袈裟な話ではなく、それぞれの音源にそれぞれのドラマが付
帯していてとても興味深いものがありました。
ということで、今回、こういったちょっと変わり種な音源とそれにま
つわるエピソードなどを私の思いつく限り簡単に紹介していこうと思
います。
なお、このシリーズ。結構な分量になりそうですから、数回に分け
て、しかも不定期でアップするということでご了承下さい。
■ヴァイブの王様、ライオネル・ハンプトンのドラムス。
ヴァイブの王様、ライオネル・ハンプトンは、元々そのキャリアを
ドラマーとしてスタートさせています。
ルイ・アームストロングのレコーディングに参加した際に、御大か
らスタジオにあったヴァイブラフォンをプレーするようアドバイスさ
れたことがヴァイブ奏者、ライオネル・ハンプトンの原点というのは
有名な話です。
ハンプトンの場合、ドラムスもヴァイブも至芸の域に達していて、
どちらがメインでどちらがサブとは言い難いものがありますが、ど
ちらかと言うとヴァイブ奏者としてのイメージが強いですね。
名盤『スターダスト』のタイトル曲では、彼の一世一代ともいえる
素晴らしいヴァイブ・ソロを堪能することができます。また。ドラム
スの方は彼の率いるビッグ・バンドでもよく披露されていました。
■芸達者なレイ・ナンス。
デューク・エリントンのお抱えトランペッターのレイ・ナンス。この
ひとはトランペット(コルネット)だけでなく、ヴァイオリンの腕前も
相当なもので、もしかしたらヴァイオリン・プレーの方が評価が高
いかもしれませんね。
デューク・エリントンのビッグ・バンドでは、レイ・ナンスのヴァイ
オリンは他のスター・ソロ・プレーヤー同様、大きな聴きもののひ
とつでした。
このレイ・ナンスというひと。トランペットやヴァイオリンだけでな
く、ヴォーカルやダンスもこなすまさに”芸達者”なお方です。
■元祖マルチ・ミュージシャン、ベニー・カーター。
優れた作編曲家でありバンド・リーダー、そして非常にソフィス
ケートされたスタイルのアルト・サックス奏者でもあるベニー・カ
−ター。
彼は何と11種類もの楽器をこなすという”元祖マルチ・プレーヤ
−”というべき存在で、そのスイートな音色のサックス同様、トラン
ペットも素晴らしい音色でした。
元々トランペット奏者だったようですが、発音方法が根本的に異
なるこの二つの楽器をほとんど同等のレベルで吹きこなしたので
すから、やはり異能のひととしか言いようがありません。
そんな彼も、一時期は流行りのチャーリー・パーカー・スタイルに
もチャレンジしたこともあるそう。
マイルス・デイビスに「どうだ。バードみたいに聴こえるか?」と
尋ねたところ、それに対するマイルスの答えがまたイカしていま
す。
「いいや。ベニー・カーターに聴こえるね。」と。
■ディジー・ガレスピーのピアノの力量。
チャーリー・パーカーらとビ・バップを追求するため、故郷のセン
トルイスからNYに出て来たマイルスにピアノを勉強するよう強く
勧めたのがディジー・ガレスピーと言われています。
また、マイルス自身も、後年ダウンビート誌が行ったアンケート
で、注目のピアニストとして何とディジーの名前を挙げていること
からもなかなか個性的なピアノを弾いていたことが窺われますね。
パーカーのサヴォイ・セッションの中の「コ・コ」という急速調の
曲では、吹けないマイルスに代わってトランペットを。パーカーの
ソロのバックではなかなか達者なピアノ伴奏を披露しています。
ここで聴かれるピアノは、彼だと言われなければわからない程
極めてオーソドックス、かつ教科書的なものですが、ソロを弾い
ているわけでもないので、実際どれ程の腕前なのかは未知数で
すね。
後年、彼はピアノ・アルバムも作っているらしいのですが、レビ
ューを読むと評価は微妙な感じで、私は買って聴く勇気がありま
せん(笑)
ちなみに、ディジーはドラムやパーカッションの達人だったそう
で、ケニー・クラークやマックス・ローチらと同様、モダン・ジャズ
・ドラミングの基礎を作るのに一役買ったものと思われます。
■アート・ブレイキーもピアノを弾いていた?
ドラムスのアート・ブレイキーは元々はピアニスト志望だったよ
うで本人曰く相当なものだったとのこと。
ピアニストとして生計を立てていた彼は、ある日突然、どんな事
情でそうなったのかはわかりませんが、出演していたクラブのオ
ーナーにピストルで脅され、ほとんど無理矢理ドラマーに転向さ
せられたのだとか。
ところが、ドラマーに転向してからは鳴かず飛ばず。聴くに堪え
ぬ演奏に観客から罵声を浴びることも度々だったという彼に、あ
のディジー・ガレスピーがワンポイント・アドバイスを伝授。
このレッスンはステージの休憩中に行われたというのですが、
次のセットではアラ不思議!あのアート・ブレイキー・スタイルで
ビシバシとタイコを叩いて周囲を唖然とさせたとかさせないとか・
・・・
まあ、半分ホラ話でしょうが(笑)前述のガレスピーがビ・バップ
・ドラミングに大きく関わっていたことを裏付けるエピソードではあ
りますね。いや、この場合、ブレイキーのピアニストとしての素養
が、彼の複雑で独特のドラム・スタイルを形成するのに役立った
と言うべきでしょうか。
ということで、今回はここまでということで・・・また次回に続き
を書きますね。今度はもう少し最近のプレーヤーについても触
れようかなと思っています。

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