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2009年11月06日

2009:11:06:00:17:30

晩秋の一枚に。『スケッチ・オブ・スペイン』/マイルス・デイヴィス

  『クールの誕生』から始まったマイルス・デイヴィスとギル・エヴァ
 ンスとの緊密なコラボレーションは、『マイルス・アヘッド』、『ポギー
 ・アンド・べス』を経て、この作品で最高の形となって結実することに
 なります。

  スペインの作曲家、ホアキン・ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」
 第2楽章をはじめ、その題材をスペインに求めた不朽の名作『スケ
 ッチ・オブ・スペイン』。

スケッチ・オブ・スペイン
マイルス・デイビス
スケッチ・オブ・スペイン
曲名リスト
1. アランフェス協奏曲
2. ウィル・オ・ザ・ウィスプ
3. ザ・パン・パイパー
4. サエタ
5. ソレア

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  マイルスがこの作品に着手する以前からスペイン音楽に関心を
 寄せていたことは、”モード・ジャズ”を具現化した名盤、『カインド・
 オブ・ブルー』で「フラメンコ・スケッチ」という曲を演奏していること
 からも窺い知れますが、直接のきっかけは、友人のベーシスト宅
 で、この「アランフェス協奏曲」を聴いて、その強力なメロディ・ライ
 ンに強い感銘を受けたことだったようです。

  
  一度聴いたらなかなか耳から離れない、このスパニッシュ・メロ
 ディを自分のものにすべく、マイルスはギル・エヴァンスに相談を
 持ち掛けますが、アルバム一枚を製作するにはちょっと足りず、
 この「アランフェス」以外にも、スペインや中南米の民族音楽をモ
 チーフにギルが作曲した「ザ・パン・パイパー 」や「ソレア」、「サエ
 タ」など3曲とファリャの「きつね火の歌」(ウィル・オ・ザ・ウィスプ)
 が加えられました。

  エルヴィン・ジョーンズの奏でる様々なパーカッションのリズム
 の中からユラリと立ち現れる、木管楽器を多用したギル独特のカ
 ラフルで分厚いハーモニー。
 
  原曲ではクラシック・ギターで奏されるあのメランコリックな旋律
 を時折フェイクを加えながら、切々と歌い上げていくマイルスのト
 ランペット。

  リリカルなマイルスのサウンドを生かすべく、要所要所に施され
 た数々の仕掛けと実にドラマティックな展開・・・。


  このアルバムを完成させるにあたり、ギルは毎日のように図書
 館に通い詰め、スペインの音楽や文化についての文献を研究。
 世界中の民族音楽を聴き漁るなど、まるでクラシックの作曲家の
 ようなアカデミックな作業に没頭しています。

  結果、ロドリーゴの手になるこの名曲を一度は完全に解体。あ
 る部分は引き延ばされ、またある部分には豊かな肉付けを施し、
 必要な部分には新たなパートも書き加えた上で、また新しく曲を
 組み立て直すという、途方もなく困難なアレンジをギルはこの曲
 に施すのです。

  ご存知のとおりクラシックの楽曲というのは、一音たりとも変更
 の許されない「完成品」としてこの世に出てくるわけで、触れば触
 るほど原曲の”品格”や”味わい”が失われることが多いものです
 が、このヴァージョンに関しては、原曲の持つあの寂寥感や内に
 秘めたエモーションなどは一切損なわれていないのは見事としか
 言いようがありません。

  勿論、それはギルの卓越したアレンジに負う部分は大きいので
 すが、この楽曲に新たな息吹を吹き込んでいるのは、やはりマイ
 ルスのトランペットが持つあの独特の”サウンド”でしょうね。

  「一番困難だったのは、1回、2回の演奏で完成させなければな
 らなかったことだ。『スケッチ・オブ・スペイン』のような音楽は、何
 度もやると表現したいフィーリングが失われてしまうからだ。」

  この作品における自身の演奏を、こういった旨の発言で回想し
 ているマイルスですが、クラシカルで用意周到なギル(とそのオ
 ーケストラ)に対して、実にジャズメンらしい精神で、楽曲に新た
 な生命と彼ならではのフィーリングを傾注づることに成功してい
 ます。

  確かマイルスの伝記の中で、スペイン文化の知識の少ないア
 メリカの黒人にスペイン音楽のレコードなんか作れっこないと言
 い張る引退した闘牛士にこのレコードを聴かせたところ、久しぶ
 りに闘牛士の衣装を身に纏い、飼っていた闘牛を殺してしまっ
 た・・・といった、いかにも宣伝っぽい逸話が紹介されていたまし
 たが、「ソレア」における、マイルスの煽情的なトランペットと激し
 いリズムを聴いていると、まんざらそれがウソではなさそうな気
 がしてきますよね。

   ちなみにこの作品の目玉のアランフェス協奏曲。演奏自体が
 非常に困難が故に、ライブで再現するのは不可能とされていた
 のですが、実際はカーネギーホールでライブ演奏され、その音
 源も残っています。勿論、出来栄えの方はスタジオ盤に遠く及
 びませんが、興味のある方はご一聴してみてはいかがでしょう
 か。(レガシ−・エディションや『モア・ミュージック・フロム・カー
 ネギー・ホール』で聴くことが可能です。)






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