とりは誰かと聞かれたら、迷わずこのひとの名前を挙げるでしょう。
最近、あまりその活動を耳にすることは少ないテナーマンのスティ
−ヴ・グロスマン。

その白人とは思えない、まるでバリトン・サックスのような図太い音
色と他を圧倒する凄まじい音量で、鬼神のようにブローする様は、今
聴いても非常に魅力的。
今や伝説化している、日本の『サムデイ』でのライブでは、そのあ
まりにも強烈な音量で、録音機材が壊れてしまったという話があり
ますが本当でしょうか。だとすれば、さもありなんといった感じです
が、いやはや、恐ろしいというか、私は嫌いじゃないですね。こうい
った武勇伝は(笑)。
スティーヴ・グロスマンというひとは、マイルス・デイヴィスのグル
ープで、ウェイン・ショーターの後釜として(ショーターの推薦)、僅
か18歳という若さでデビューした天才プレーヤー。
しかしながら、前任者のショーターの存在感があまりにも大きか
ったことや、在籍期間が短かったこともあるのでしょう。意外なこと
に彼のベスト・プレーというのは、マイルス時代のものではなく、彼
がサイドメンとして参加した作品や、彼自身のリーダー・アルバム
の方で多く聴けます。
例えば、ドラマーのエルヴィン・ジョーンズの『ライブ・アット・ライ
トハウス』というアルバムでは、デイブ・リーブマンとの手に汗握る
白熱したテナー・バトルが聴かれますし、彼のリーダー・アルバム
の『ボーン・アット・セイム・タイム』、ドン・アライアスらと組んだスト
ーン・アライアンスでのゴリゴリとハードに吹きまくるプレーも捨て
がたいですね。
そうそう、若い頃のグロスマンは、あのマイケル・ブレッカーも真
っ青な(笑)、生粋の”コルトレーン派”のプレーヤーだったんです
よね。
リーブマンやブレッカーが、どちらかというと、コルトレーンのプ
レー・スタイルを和声学的に、数学的に追求したのに対し、グロス
マンのプレーは、コルトレーンが持っていた底知れぬパワーや深
いエモ−ションといったものを継承しているようで、当時の彼には
、他のプレーヤーにはない”野性味”みたいなものが備わってい
ました。
そんな70年代を疾風のように駆け抜けたグロスマンも、当時の
プレ−ヤーの多くがそうだった様に、ドラッグや過度のアルコール
が原因で健康を害し、ジャズ・シーンから姿を消してしまいます。
80年代に入ってようやく健康を取り戻したグロスマンは、シーン
に復帰。精力的にレコーディングを行いますが、あれほどコレトレ
ーン一辺倒だった彼は、悠然とメロディアスにブローする「ロリン
ズ派」に大転身。その豹変ぶりに当時のファンは、大いに驚愕し
たのを今でも記憶していますね。
しかしながら、あの図太い音色とロリンズ風のフレージングとの
相性は抜群。現在に至るまで、バップやハード・バップを中心にし
た良質のアコースティック・ジャズをプレーし続けています。
選曲や曲調によっては、昔、バリバリのコルトレーン派だった彼
らしいフレーズがちょこちょこと顔を出すのがご愛嬌?特にコルト
レーンの愛奏曲を演るとその傾向が顕著になるようで、昔の彼の
スタイルが大好きな私などは、思わずニンマリしてしまいます。
近年のグロスマンは、ヨーロッパを拠点に活動しているようで、
元々実家がお金持ちだとか、会社社長の娘と結婚したとか聞い
てますが、とにかく悠々自適に好きな仕事だけを選んでやってい
るとのこと。ウ〜ン。ちょとだけ羨ましい(笑)!?
確かに、彼のプレーにじっくりと耳を傾けてみると、気儘とでも言
いますか、あまり「起承転結」を考えて吹いている感じはしないで
すね。
インスピレーションの赴くまま延々吹いて、飽きたらサッサとテー
マを吹いてエンディングみたいな(笑)。良く言えば大らか。悪く言
えば大雑把なところがあって、そういったところが、逆に彼の魅力
と言えば魅力でしょうか。
スティーヴ・グロスマンというひとは、音楽そのものの方向性を
大きく変えるような影響力はないものの、こと”テナー・サックスを
吹く”ことに関しては、とてつもないポテンシャルを持ったプレーヤ
ー。
優等生的なプレーヤーの多い昨今、グロスマンは、昔のジャズ
メンのようなオーラを纏った最後のテナー・マンかもしれませんね。
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